続・夢鳥は闇に踊る



*佐助×幸村




※夢鳥シリーズで、幸村と佐助がある意味恋仲になった後のオマケ話。とある初夏の真田主従。前回の話で物語は完結していますので、短編として読んで頂いても結構です。
相変わらず病んでいる真田主従、歴史捏造にご注意下さい。






幸村の嫁候補は死ななくなった。幸村に言い寄る男も、激減した。
けれどそれは、幸村がはっきり「断った」ため。幸村は見合い話を全て断り、子は養子を取ると断言した。
全ては愛しい、淋しがり屋の忍のため。
佐助は気付かないフリをしていたけれど。

木漏れ日が燦々と降り注ぐ森の中を、馬を駆って走り抜ける男が一人。幸村だ。幸村は逞しい駿馬を操り獣道を抜けてゆく。こうして深い森の中を馬に乗って走り回るのが幸村の唯一他人に言える「趣味」だった(団子を食う、昼寝をするというのはさすがに言えない)。
そして、馬に跨る主を追って木々を渡るのは佐助である。他に影はいない。いない、というか二人の邪魔をしない程度の距離に置かれているというだけの話。
年を重ねて、幸村と佐助はこうして時間を共有することが多くなった。

しばらく馬を走らせているうちに、幸村の頭上から突如凄まじい殺気が降り注いだ。とっさに馬の手綱を引いて煽る。地面に数本のクナイが突き刺さった。馬から飛び降り槍を構え、正面にかざせばすぐさま打ち当たる刃。刃を振り下ろしてきたのは佐助だ。木から飛び降りながら小刀を抜いたらしい。幸村の腕力に叶わない佐助はそれ以上押したりせず、少し刃を合わせてから闇に溶けた。
幸村は立ち上がり、辺りを見回す。殺気を隠そうともしない影の気配が周辺を取り囲んでいた。
幸村は静かに槍を降ろした。集中する。
影がどこから躍り出てくるか、見破らなければ次の一撃で確実に己の心臓は貫かれる。
背後に殺気が堪る一瞬の気配を幸村は見逃さなかった。振り返り、一閃。槍に捕らわれた佐助は横になぎ倒される…筈だった。

「…今日は、俺様の勝ち」

くすくす笑う佐助の声と同時になぎ倒された佐助は無数の羽根に代わり、幸村がハッとした瞬間頭上に落ちる影。

「く…!」

佐助の振り下ろした小刀は幸村の喉を切り裂いたー…



****



小刀は幸村の喉を切り裂かなかった。代わりに、地面に縫い止められ佐助に乗っかられてしまっている。

「…参った、」

降参、と幸村は苦笑し溜息を吐いた。佐助は幸村の両手を地面に押し当てて酷く楽しそうに笑っている。

「あは…俺様の勝ち。いいよね、約束だもんね、俺様好きにしちゃうからね」

どこか焦った風に佐助は言い、幸村の口に吸い付いた。すぐに口内に舌を差し入れ唾液を啜る。幸村が多少苦しそうにするのもお構い無し、佐助は幸村の紅の着物を脱がせ始めた。帯を毟るように解き、合わせ目を乱暴に開く。

「う…っ、く…さ、さす…っ」
「…ゆきむらさま、」

胸の突起を抓られて呻く幸村に、佐助がうっとりした表情で「お慕いしております」と囁く。乱暴すぎる愛撫でも、そのあまりに切羽詰まった低い掠れ声に幸村は胸を高鳴らせた。
佐助はいつも必死だった。幸村と「殺し合い」という鍛錬をする時も、身体を合わせる時も。

『俺にはさ、旦那を抱くのも殺そうとするのも、同じくらい気持ち良いよ』

そう言ってにこり、笑った佐助は病んでいながらもどこかさっぱりとしていた。数年前の思い詰めたような闇はどこにもない。
幸村はそんな佐助が悲しくもあり、愛おしかった。
自分にそんなにも執着してくれる佐助にどうしようもないくらいの「愛」を感じた。

「ああ、あ…!佐助っ、そ、んなにふかく…っああッ」
「はぁ…きもちい…、きもちい、ね、だんな。気持ち良いでしょ?ここ、好きでしょ、」
「う、あ…っ、ひ、そ、そこはぁ…っ」

ぐりぐり、前立腺を熱い楔で穿たれて幸村が鳴き喚く。佐助の性行為に容赦が無くなったのは、幸村がこの行為に慣れた所為。数年前より肉体的にも「男らしく」なったはずの幸村の腰がいやらしく括れているのは、きっと佐助のいやらしい性行為の所為だと思われる。
無駄な脂肪などない、けれど色も白く艶めかしい幸村の腰を掴み佐助が腰を打ち付けていた。

「あ、あ…っ、さ、すけ…っ」

涎を垂らして喘ぐ幸村を見て、佐助が更に強く前立腺を穿つ。
(イって。イってよ旦那。俺の汚れた×××でイって、気をやって)
佐助も腰を振りながら、涎を垂らしそうな顔ですっかり心酔してしまっている。

「…っ、幸村さま…っ!」
「や、あ…っいく…っ、い…あーーーーー…っ」

どく、どくどく
お互いの切羽詰まった声が響いたのと同時に、幸村の胎内に注がれる白濁と胸に飛び散る精液。

「はあ……、旦那…、」

佐助は荒い息を吐きながら放心する幸村をひっくり返し、今度は後ろから覆い被さって行為を続行するに至った。
獣じみた行為は、幸村が本当に気をやってしまうまで続く。



****



陽も暮れる夕方、行為から解放された幸村は何とか覚醒した意識を手放すまいと必死だった。目を開けているものの「とろり」と放心している幸村の着物を、佐助が屋敷を出る時と同じように着せ直している。

「はい。できたよ、立てる?」
「…愚問だな。立てると思うか?」
「……ごめん、無理だよね」

む、と眉根を寄せた幸村に佐助が噴き出した。くすくす小さく笑いながら、幸村を馬の背に乗せてやる。乗せてやってからすぐに佐助も馬に跨った。幸村をしっかり後ろから抱き締め、馬を走らせ始める。幸村の腰に極力響かないよう、ゆっくりとした速度で。
駿馬が帰途を辿り始めしばらくして、

「……俺は、こっちの方が心地良いと思う」

幸村がぽつりと言った。
俺は、殺し合うより佐助とこうして一緒に馬に跨っている方が心地良い。
真っ直ぐな声に、佐助が苦笑する。

「俺様も“心地良い”よ?」

佐助はそう言って、幸村を強く抱き締めた。馬を走らせながら、器用に抱き締めてくる佐助に幸村も笑う。

「…だがしかし、心地良いものが「好き」かと言えば別か、佐助」
「ご名答。さすが俺の主様」

嬉しそうに囁く佐助に、幸村は身を任せたまま目を瞑った。
殺し合うことに「愛」とか「生」への執着を感じ「悦ぶ」佐助が、幸村はとても切なく思う。
けれどやはり、幸村は佐助を強く愛おしいと思う。
(影と共に生きるとは…そういう事だろうな、)
消えゆく意識の中で、幸村は佐助の隠そうともしない殺気を心地良く思うようになった自分に気付かないフリをした。



共に在るのは、常に死と隣り合わせの“愛情”。




End

思い入れのある作品です、懐かしいです


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